カーミング・シグナルとは?
犬も社会的動物ですから、不要な争いはなるべく避けたいと考えています。でも彼らには音声言語がないので、声の代わりにジェスチャーのような非音声言語を発達させてきました。これをカーミング・シグナルと言います。Calmingは英語で「落ち着かせる」、Signalは「信号」などを意味します。
犬の祖先であるオオカミにもカットオフ・シグナル(Cut offは止める、中断するなどの意)と呼ばれる表情や行動があるのですが、これは争いを中断させるためのもの。犬は争いが始まる前に「予防」するため、別の名前がつけられたのです。
代表的なカーミング・シグナル
犬のカーミング・シグナルは現在27個ほどとされています。中でも代表的なものを挙げてみましょう。さて、見たことのある仕草はいくつあるでしょうか?
鼻をなめる
緊張している状態。自分の感情を抑えたり相手を落ち着かせるために用いられるもので、特に高速で出し入れする場合はフリッキング(flicking)とも呼ばれます。興奮や不安を抑制するためのシグナルには、他にも地面の匂いを嗅ぐ、耳の後ろを掻くなどがあります。

座る・伏せる
犬は興奮状態を鎮めようとして座ったり伏せたりします。人間にたとえるならスポーツのインターバルでしょうか。短い休憩中に、スポーツマンが荒い呼吸を吐きながら心臓の鼓動を抑えようとするように、犬も座ったり伏せたりすることで落ち着こうとしています。
笑う・笑顔を見せる
とても分かりやすいシグナルの一つです。犬も人間と同じで、楽しかったら笑顔を見せるのですね。このとき、犬はたいへんポジティブな状態になっているので、比較的楽にコミュニケーションを取れるでしょう。余談ですが、犬はどうやら人間の笑みを真似するようで、これらは「模倣の笑み」と呼ばれています。
目を細める
目を細めたりまばたきしたり、体や顔を背けたりするのは、敵意がないことを示すためのシグナルです。顔を背けた後に、地面の匂いを嗅ぐなど別のシグナルへ移行する場合もあります。また、円を描くようにぐるぐる回りながら緩やかに距離を縮めるのも、仲良くやっていこうとするためのシグナルです。もし犬を見つけたときにまっすぐ近づいてしまうと、敵意を示していることになりかねません。近づくときは回り込みながらが吉と心得ましょう。
あくびをする
人間とは違って眠気覚ましのためにあくびをしているわけではありません。実は相手を落ち着かせようとしたり、ストレスや不快感、不安を感じているときにあくびで感情を表現するのです。誤解しやすいところなので特に注意しましょう。また、体を背けたり間に割って入ったりするのも、相手を宥めようとするシグナルです。
頭を下げてお尻を上げる
陸上選手のクラウチングスタートのような、今にも飛び掛りそうな体勢になることがありますが、これは遊びのおじぎと言われています。遊びたい気持ちを示すためのサインなんですね。でも本当に怒っている場合もありますから、そういうときは口をじっと見つめて確かめてみましょう。唸っていないか、歯茎や歯をむき出しにしていないかどうか、前の章で確認したそれらの特徴が判断の基準になります。
地面の匂いを嗅ぐ
これもカーミング・シグナルの一種です。犬は地面の匂いをかぐことでどのような犬がこの道を通ったかという情報を収集していますが、必ずしも情報収集だけを目的としているわけではありません。見知らぬ犬が通りかかっても地面を嗅ぎ続けていることがあるからです。この場合、犬は地面を嗅ぐことで自分を落ち着かせようとしています。
これらのシグナルを理解すれば、犬の本心にまた一歩近づけるでしょう。もちろん、中には他のシグナルとの組み合わせで意味が変わってくるものもありますので、1つ1つのシグナルの意味を的確に捉えていきましょう。