犬は狼から進化した?
犬の先祖については様々な説があり、狼のみならず、ジャッカルやコヨーテなどから進化したのではないか、とも言われてきました。しかし、最近では遺伝子学の発展により、犬の進化の系譜が明らかになりつつあります。
現在最もスタンダードな細胞内共生説によれば、細胞の中にあるミトコンドリアは、外からやってきて細胞に住み着いたものであるとされています。ミトコンドリアDNA(mtDNA)は母親からしか子供に遺伝しないという特徴を持っているため、細胞内共生説を正しいものとしDNAをたどっていけば、先祖を特定することが可能になります。そうした分析を重ねた結果、どうやら犬は東アジアの狼から分岐したらしい、という説が有力になりました。もっとも、2010年には中東を起源とする説を唱えた論文が発表されるなど、まだ完全に決着がついているわけではありません。

狼が犬になった時期については紀元前1万5000年頃とする説、紀元前4万年頃とする説が有力ですが、いずれにせよこの頃には、もう犬は狼とは別の種類の生き物に分化していました。日本では昔から狼をヤマイヌと、普通の犬をイエイヌと表現していますが、全く別の生物であることが呼び名にも現れているのですね。
なぜこのような話が大事かといえば、犬と狼は似て非なる生物だからです。犬は人間を信頼し、コミュニケーションをとろうとしますが、狼は非常に独立心が強いという違いがあります。生まれて3週~5週間の犬と狼を比較すると、その違いが顕著に現れたという実験もあるほど。
この違いを理解しておくのはとても大事なことです。犬のしつけといえば、かつては犬を仰向けに押さえつけたり(ロールオーバー)、犬の口をつかんで上下関係を教え込んだり(マズルコントロール)するなど、狼の行動を研究して生まれたものが多かったのですが、必ずしも犬に対して効果的とは限りません。犬と狼の遺伝子は99%一致すると言われていますが、人間とチンパンジーの遺伝子も99%一致しています。人間とチンパンジーに同じようなしつけが通用するでしょうか?
犬種別の分類
犬の種類は現在700~800種とも言われ、動物の中では際立って形質や性格の差が大きい種です。ペット産業に従事するブリーダー、犬の愛好家、犬種クラブ等が定めた「犬種標準」(スタンダード)を守るため、その基準に沿っていることを証明するための血統書が発行されています。
日本では一般社団法人ジャパンケンネルクラブ(Japan Kennel Club、略称JKC)という畜犬団体が厳正な犬籍登録管理を行っています。JKCは国際畜犬連盟(Fédération Cynologique Internationale、略称FCI)の公認する300超の犬種の半ばを登録し、これをスタンダードとして定め、生存目的や形態・用途によって10のグループに分類しています。その一覧を見てみましょう。
FCI10グループ
1G 牧羊犬・牧畜犬
家畜の群れを誘導・保護する目的で改良された犬種。運動が好きで賢く、トレーニング能力の高さが特徴。コーギー、シープドッグ、ボーダーコリーなど。
2G 使役犬
番犬や警護、特殊な作業のために使役される犬。責任感のある賢い働きもの。グレート・デーン、スタンダード・シュナウザー、セント・バーナード、土佐、ブルドッグなど。
3G テリア
人間の入りにくい穴の中に住むキツネなど、小型獣を狩るための猟犬。活発で敏捷、そして利巧ではあるものの、やんちゃなので早い段階からのしつけが大事です。アイリッシュ・テリア、ウェルシュ・テリア、ヨークシャー・テリアなど。
4G ダックスフンド
アナグマやウサギなど、地面の穴にすむ獣を狩るための犬。非常に筋肉質で体長の長い短脚。人懐っこく落ち着きがあります。
(ドイツ語読みではdの音が濁らないためダックスフントとなりますが、JKCでは英語読みの「ダックスフンド」表記を採用しています)
5G 原始的な犬・スピッツ
サモエド、シベリアン・ハスキー、柴、ポメラニアンなど、古くから存在する犬種。マズル(鼻口部)が尖り、利口で鋭敏、さらには忠誠心に厚いのが特徴です。
6G 嗅覚ハウンド
吠声が大きく、嗅覚も鋭い狩猟犬。何かあれば主人に知らせるため大声で吠えます。スタミナがあり、活発に活動してくれます。アメリカン・フォックスハウンド、ダルメシアン、ビーグルなど。
7G ポインター・セター
獲物を探し、位置を静かに示す猟犬。適応力があり、性格もバランスが取れています。アイリッシュ・セター、イングリッシュ・ポインター、ゴードン・セターなど。
8G 鳥猟犬
7Gに属するポインターやセターを除いた鳥猟犬。協調性のある犬種です。アイリッシュ・ウォーター・スパニエル、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバーなど。
9G 愛玩犬
伴侶であったり愛玩目的で飼育される犬。家庭犬。飼い主の愛情をしっかり受け止め、グルーミングなどを必要とします。キング・チャールズ・スパニエル、シー・ズー、チワワ、狆、パグ、プードル、フレンチ・ブルドッグ、ペキニーズ、マルチーズ、ボロニーズなど。
10G 視覚ハウンド
優れた視覚と走力を持ち、獲物を追跡・捕獲する犬種。大変物静かですが、いったん獲物を見つけると優れた反応を見せます。視力とスピードに自信のあるタイプです。イタリアン・グレーハウンド、ディアハウンド、ボルゾイなど。
ご覧の通り、犬種ごとにそれぞれの役割があります。全てを覚える必要はありませんが、お世話をすべき犬がどのような役割をもって生まれてきたのか、人間社会ではどう扱われてきたのかをチェックしておけば、その特徴から日々の看護やセラピーに役に立つ場面も出てくるでしょう。