Lesson11-1 猫のしつけ方について

猫のしつけは難しい

前回のLessonでは猫の各種行動の理由や意味を学びました。今回からは、基本的なしつけの考え方について学んでいきましょう。

猫は犬と違ってしつけの難しい動物です。なにしろ褒めてもさほど効果がありません。群れで暮らす犬にとっては、仲間として受け入れられること、褒められることはとても大事でしたが、そもそも単独で生きる猫にその理屈は通用しません。他者からの承認をさほど必要とはしない猫に、ご褒美を使ったしつけは犬ほどに効果的ではないのです。

そのあたりの犬と猫の違いについて、まず見ていきましょう。

犬との違い

猫は執着が少ない

犬と違って猫はやや気まぐれな傾向にあります。特に食への執着はさほどでもなく、嫌いな食事には全くといっていいほど手をつけません

犬の項目では強化子としておやつを使ったしつけを紹介しました。同じやり方が猫に通用するかどうかという話であれば、もちろん通じることには間違いありません。猫だって好きなおやつと行動を結び付けられればちゃんと理解してくれます。ただ、犬ほど効果的ではないことも理解しておくべきでしょう。

褒める意味が薄い

先に触れたとおり猫は単独で生きる動物ですから、他人から褒められたところでさほど嬉しがりません。褒めて伸ばすようなしつけの方法はあまり効果的ではなく、かといって叱って伸ばすのも難しいのです。

Lesson11-1

それでも撫でたりグルーミングしたりすることに意味があるのは犬と同じですし、体罰が逆効果であることも変わりありません。飼い主は体罰を与える人という図式が刷り込まれてしまっては、もうなかなか言うことを聞いてはくれません。

強化子を与えたり褒めて伸ばしたりするという犬に対するしつけと同じやり方を基本方針とするのは間違いではありません。けれど、猫という動物が気まぐれな分、その効果は薄いと考えておくと心の準備ができます。猫のしつけは犬より数段難しいと考えましょう。

正の弱化は比較的効果的

ただし、猫に対してはサプライズがなかなか効果的に作用します。危機的な状況から身を遠ざけるために、全力で危機察知能力を働かせる猫のことですから、突然大きな音がしたり石が降ってきたりすると、「あそこは危ないから近寄らないようにしよう」という思考が働くのか、意外と素直に問題行動を取りやめるようになります。

ここで大事なのは、体罰にならないような、それでいてちゃんとサプライズとして通用する罰を与える方法を考えることです。古典的な猫だまし猫避け超音波発生器の利用が効果的です。

本格的に猫をしつけるために

社会化期を利用する

犬と同様に、猫にも社会化期があります。文献によって時期は多少前後しますが、生後2週~7週の間は猫の社会化期であり、この頃のしつけは後々にまで影響します。

犬の社会化期に外へ連れ出して様々な人・物に触れさせて慣れさせたように、猫もこの時期に他の子猫と触れることで、猫同士のコミュニケーションを学びます。また、飼い主以外の人間とも触れることで人懐っこい猫になりますし、この時期に他の動物と一緒に暮らすと「大人になってからも仲良しな犬と猫」のような異種族間のコミュニケーションが成立する場合があります(鳥や小動物などは食べてしまう可能性もありますので、意図的に触れ合わせるのはやめましょう)。

この時期のしつけとして大事なのは、猫の体に1日1時間程度優しく触れるハンドリングを行うことです。これで人の手に慣らしておくと、成長してからも比較的人間に懐きやすい社交性の高い猫になります。

空腹を利用する

おやつの効果を最大限に上げるために、空腹を利用するというものがあります。生活用具やキャリーバッグに慣れさせるために、食事を抜いたり空腹の時間帯を狙ったりして、お腹の空いている状態を作り出します。

空腹状態を作り出した後で、例えばブラッシング用のコームやブラシをおやつと一緒に近づけてみたり、ガーゼを巻きつけた指におやつのいい匂いをつけて口の中に抵抗なく入れさせるようにしてみたり、キャリーバッグの中におやつを置いてみたりします。

こうしておやつ=快=道具の図式を身につけさせるようにすれば、猫も自然と苦手意識をなくしていくでしょう。

母猫の助けを借りる

これは母猫先住猫(先に住んでいた猫)がいないと使えない方法ですが、猫は先人ならぬ先猫の後姿を見て模倣します。これを模倣学習といって、とりわけ母親をモデルとした場合の学習効率はとても高いものとなっています。

1969年に行われた実験では、ある問題を自力で解決しようとするケースについて前提条件を3種類設定して問題を解かせたところ、驚くような結果が出ました。猫が単独の場合は16回近い試行回数を終えてもまるで上手くいきませんでしたが、見知らぬ猫のまねをした場合は13回程度で上手くいくようになり、母猫のまねをした場合はたったの4回で完璧な行動を見せるようになったのです。

これを利用すると、たとえばトイレの場所を覚えるのも簡単です。猫は砂の上にトイレをする習性があるので、小さなトイレ用砂場を用意して、トイレサインを発したときに連れて行くというしつけを繰り返せば犬よりずっと楽にトイレを覚えてくれますが、その際に母猫と一緒にすればもっと簡単に覚えてくれるのです。しつけに関しては「猫の手も借りたい」というべきかもしれませんね。