猫同士の様々な行動
人間たちと暮らす猫の行動について学ぶ上で、参考になるのが猫同士のコミュニケーションです。飼い主である人間に対して同じようなコミュニケーションを取るとは限りませんが、他の猫と相対したときの気持ちが分かれば余計なトラブルを避けることにもつながりますし、猫の見ている世界を少しだけ追体験できるようになります。
猫は単独行動する生き物ですから、人と猫の間に明確な上下関係を作る必要はありません。その代わり、飼い主と飼われている猫の間には信頼関係が成立しています。その絆を強固なものにするためにも、猫同士の行動の意味をしっかり読み解いていきましょう。
親和行動
猫同士が親しいときの行動です。
アログルーミング
狩猟動物である猫にとって、グルーミングは自分の臭いを消すための重要な行動です。またグルーミングで体毛に唾液をつけると、蒸発するときの気化熱で体内の熱を放出することもできます。後者は1976年、B.Hartという動物行動学者の唱えた説ですが、現代でもこれに対する強力な反論はありません。
猫にとってグルーミングはそれだけ大事な行為で、自分をリラックスさせるための日課のようなものでもあります。グルーミングを単独で行うのをセルフ・グルーミングといい、複数の猫でお互いにグルーミングをすることをアログルーミングといいます。

アログルーミングは仲の良い猫同士でないと発生しません。なぜなら、自分の舌の届かないような場所を綺麗にしてもらうからです。もし自分では届かないような場所を毛繕いしてもらうとなったとき、信頼のおけない猫に任せられるでしょうか?
ですから、もし飼い主が猫の首や頭を撫でさせてもらえたり、綺麗にお手入れしてあげたりできるとしたら、親しい猫同士のような信頼関係は構築できていると考えてよいでしょう。
アロラビング
lovingではありません、rubbingです。「摩擦する」「こすり付ける」などを意味するrubからきています。猫同士で顔をこすり付けるのを、アロラビングといいます。
理由はいくつかあるのですが、猫には額や唇の両側、顎の下などに「臭腺」と呼ばれる臭いを出す器官があるので、これをこすり付けることで対象物に自分の匂いをつけているのです。
マーキングのようですが、「自分の所有物である」ということを示すだけにとどまりません。猫同士や人間に対する親しみの表明として、このラビング行為をすることがあるのです。
また、人間に擦り寄ってくる場合は「優位者へ挨拶を行っている」という意味に取れるという仮説もあります。いずれにせよ、相手に好意的な感情を持っていると解釈してよいでしょう。
他にも、兄弟同士でじゃれ合ったり、肩を並べて走ったり……親和的行動に分類されるものはいくつかありますが、まず頭に「アロ」のつくグルーミングとラビングについてしっかり覚えておきましょう。
敵対行動
端的に言えば猫の敵対行動は喧嘩です。
猫同士のじゃれ合いを初めて見たら、喧嘩しているのではと思うかもしれませんが、終わった後でお互いの体をくまなく調べても怪我らしい怪我はしていません。社会化期やその前に他の子猫とじゃれあった経験のある猫は、ちゃんと加減することを知っているのですね。
では喧嘩はどうでしょう。
実は喧嘩にしても大怪我を負うのはかなり珍しいのです。オス同士の喧嘩には儀礼的な面もあり、本気でお互いに傷つけあっているとは限りません。
喧嘩に入る前には猫同士でにらみ合います。このとき、どちらかの猫が目をそらし、防御的な姿勢をとって譲れば猫同士の優劣が決まり、喧嘩に発展しない可能性が高くなります。
それでもお互い納得しない場合は、甲高い声を発して威嚇のポーズをとります。前回のLessonで学んだように、自分を大きく見せようとするために体を膨らませるのです。ここでどちらか一方が立ち去れば喧嘩は回避できます。
しかしそれでも譲らない場合、攻撃のために尻尾を下げて頭を左右に振り始めます。この示威行動が始まったら一触即発のサインです。どうしても止めたいのであれば、直接手を出すのではなく音の出るものを使いましょう。

どちらか一方が攻撃性の低い服従のポーズを取れば喧嘩は終了です。猫同士の間で優劣が決まり、上下関係が定まります。飼い主はこれらの猫の敵対行動に気をつけながら、自分が敵とみなされないようきちんと愛情をかけて猫をしつけてあげましょう。
序列行動
敵対行動のところでも少し触れましたが、たとえば視線が合ったときにどちらか一方の猫が目をそらした場合、そらした猫は劣位、見つめる猫は優位、という具合に優劣が決まります。
同じようなものとして、優位の猫は他の猫を押しのけて通ったり、じゃれあいの際に追いかける側に回ったり、相手の動きを制限したりします。最も分かりやすいのは敵対行動のところで触れたように、お互いの姿勢でしょうか。怒りの姿勢をとる猫は優位、おびえの姿勢を取る猫は劣位です。